次期学習指導要領で子どもの学びはどう変わるのか?⑵
- プラザくん
- 10 分前
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現在次期学習指導要領の改訂に向けて,中教審(中央教育審議会)の特別部会にて様々な議論が進められています。
前回の「次期学習指導要領で子どもの学びはどう変わるのか?⑴」では,学習指導要領の改訂の背景について触れましたので,今回は文部科学省が掲げる改訂の重要ポイントについて解説していこうと思います。
文部科学省が掲げる改訂の3本柱
令和7年9月5日付の文部科学省情報によると,生涯にわたって主体的に学び続け,多様な他者と協働しながら,自らの人生を舵取りすることができる,民主的で持続可能な社会の創り手を 「みんな」で育むため,
①「主体的・対話的で深い学び」の実装(Excellence)
②多様性の包摂(Equity)
③実現可能性の確保(Feasibility)
の3つの方向性を踏まえて議論を行うとされています。
これらの3つの方向性に基づく改善は,教育課程内外のあらゆる方策を用いつつ,三位一体で具現化されるべきものというのが基本的な考え方の根底にあり,「改訂論議を貫く三つの方向性」として100ページ以上ある論点整理の冒頭に明記されています。
Excellence(卓越性) | 深い学び・探求力の育成 | 子どもの可能性を最大限に伸ばす |
Equity(公平性) | 多様性の包摂 | すべての子どもに学びの機会を保障 |
Feasibility(実現可能性) | 教員の負担軽減・制度の持続性 | 現場で無理なく実施できる制度設計 |

次期学習指導要領の5つの重要ポイント
次期学習指導要領で掲げられている5つの重要ポイントは,現行の学習指導要領で示された方向性をさらに発展させたり,具体的な施策として検討されたりしている内容と一致しています。
これらの項目は,現行の「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)をさらに進化させ,個別最適化や情報活用能力の向上を目的としたもので,2030年度の導入に向けて中央教育審議会などで議論が進められています。
1. 授業時間の見直しと「調整授業時数制度」の導入
⑴小学校:45分 → 40分授業へ
⑵中学校:50分 → 45分授業へ
「カリキュラム・オーバーロード」の解消
学習内容が増え続け,授業時間がひっ迫している「カリキュラム・オーバーロード」の問題を解消する。
教員の働き方改革
授業時間削減で生まれた時間を教材研究や児童生徒への個別指導,校内業務に充てることで,教員の負担を軽減し,働き方改革を推進する。
教育の質の向上
一律の授業時間を短縮する代わりに,学校や地域の状況に応じて柔軟に時間を活用することで,教育の質の向上を図る。
⑶「調整授業時数」の具体的な活用例
探究活動
「総合的な探究の時間」をさらに充実させ,じっくりと探究活動に取り組める時間を確保する。
個別支援
習熟度別学習や特別な配慮が必要な児童生徒への個別指導にあてる。
教員研修
短縮分を教員の研修時間に充て,授業改善やICT活用能力の向上につなげる。
2.情報活用能力の抜本的強化
⑴小学校に「情報領域(仮称)」新設
系統的な情報教育
これまで「総合的な学習の時間」などで扱われていた情報教育を,小学校段階から体系的に学ぶ「情報領域」として確立することを目指す。
⑵AI・データサイエンスの基礎を小学生から学習
AI・データサイエンスの基礎
生成AIの利活用が広がる社会に対応するため,小学生の段階からAIやデータサイエンスの基礎を学習し,その特性を理解する機会を設ける。
メディア・リテラシー
フェイクニュースや誤情報を見抜くためのメディア・リテラシーやファクトチェックの習慣を身につけることを目指す。
⑶プログラミング教育の体系化
論理的思考力の育成
GIGAスクール構想で進んだICT環境の整備を前提に,プログラミング的思考をさらに発展させ,発達段階に応じた系統的な教育を強化する。
3.「得意を伸ばす」個別最適化教育
⑴習熟度別学習や個人プロジェクトの導入
「個別最適な学び」の深化
一人ひとりの習熟度や個性,進捗度に合わせて最適な学びを提供する「個別最適な学び」がICTの活用によってさらに進められる。
⑵ポートフォリオ評価など多様な評価方法へ
多様な評価方法
「ポートフォリオ評価」など,単なる学力テストだけでなく,児童生徒の学習履歴(スタディ・ログ)や多様な活動実績を評価する手法が広がる。
協働的な学びとの両立
個別最適な学びと他者と対話しながら学びを深める「協働的な学び」を両立させることが重視される。
4.教育課程の柔軟化と学校裁量の拡大
⑴学校独自のカリキュラムが可能に
独自の教育課程
地域や学校の実情や方針に応じて,各学校が独自の教育課程を編成する裁量が拡大される。
⑵地域特性や学校方針に応じた科目の新設も
科目新設の可能性
学校独自のカリキュラムの一環として,地域特性に応じた科目を新設することも可能になる。
研究開発学校の動向
すでに独自の教育課程を編成している「研究開発学校」の事例は倍増しており,次期指導要領の方向性を示唆している。
5.「主体的・対話的で深い学び」の完全実装
⑴探究型・プロジェクト型学習の本格導入
学習の基盤となる活動
探究型やプロジェクト型学習を本格的に導入し,児童生徒が自ら課題を発見・解決する能力を育む。
資質・能力の三つの柱
「知識及び技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力,人間性等」という現行の三つの柱は維持され,深い学びの実現を目指す。
⑵地域・企業との連携学習も推進
社会との連携
地域住民や企業との連携学習をさらに推進し,教室外での学びを深める機会が増加する。
現時点ではまだ議論段階ですが,上記5つの重要ポイントが実際に日本全国の小中学校で実践されるようになったら,少なからず子どもたちの授業中の過ごし方や小中学校の意義というのは今とは別物になるように思います。
今までも文部科学省では,子どもたちの将来を見据えて学習指導要領の改訂を繰り返してきています。
教育プラザは「ゆとり教育」導入の前後から長年その変遷を見てきましたので,期待と落胆の入り混じったとても複雑な気持ちになることがあります。
本当に学習指導要領に記載されていることが,日本全国の小中学校である程度の水準で実践されていれば,どんなに素晴らしい世の中になるだろうかという期待と,そうは言っても絵に描いた餅なんだよなぁという残念な現実があるのが正直なところです。
次期学習指導要領も大いなる理想を目指して改訂されていくのを横目に見つつ,民間の学習施設としてどうあるべきかという課題を直視しながら,これからも子どもたちに日々接していこうと思います。