「デジタル教科書の未来②」では,デジタル教科書や連動するGIGAタブレットを使い始めてからの意見・感想などを,大人目線から見ていきました。
今回は,子ども目線のデジタル教科書の成果・評価ということで,東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所「子どものICT利用に関する調査2023」の調査結果(以下,ICT利用調査とします)を引用する形で解説していきます。
ちなみに,調査概要は以下の通りです。
【調査テーマ】
学校および家庭でのICT機器の利用実態と意識
【調査方法】
郵送による依頼、WEB(パソコン・タブレット・スマートフォン等)による回答
【調査時期】
2023年2~3月
【調査対象】
「子どもの生活と学びに関する親子調査」の調査モニター
小学4年生から高校3年生までの子ども
【調査項目】
1.学校でのICT 機器利用
利用するICT 機器の種類/利用頻度・時間・教科/ ICT 機器を使った子どもの活動と教員の指導/ICT 機器の利用に対する意識/宿題での利用/持ち帰りと家庭での利用/学校での利用への意見や評価など
【2.家庭でのICT 機器利用】
利用するICT 機器の種類/利用頻度・時間/インターネットの利用率・用途・人との交流/SNS の利用状況/読書/ ICT 機器を使った家庭学習の内容・頻度・評価など

子ども目線‼ デジタル教科書の成果・評価
東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所「子どものICT利用に関する調査2023」から
まずは,デジタル教科書も見ることができるICT機器の利用状況から見ていきましょう。
こちらはすべて小学生(小4~6)・中学生・高校生による子ども目線のアンケート結果となります。
① 学校でのICT機器の利用頻度・時間・教科
ICT利用調査によりますと,小・中・高校生のおよそ30%が,学校で「ほぼ毎日」ICT機器を利用しているようです。
ただし,勉強目的でICT機器を使う頻度は,学校段階が高くなるにつれて低くなる特徴があり,授業での使用頻度は学校頻度が低いほど高くなる傾向があるとのこと。
つまり,ICT機器は授業をサポートするツールとして利用されることはあるが,教科の勉強道具としてはまだ改善の余地があるということでしょうか。
ちなみに,教科別のICT機器の使用頻度について
「◎ほぼ毎回使う・半分より多い授業で使う」
「▲その授業ではICT機器は使わない」
という両極端なデータ比較をしてみると,以下のようになっているようです。
【国 語】
小学生 ◎7.0% ▲24.4%
中学生 ◎6.7% ▲37.2%
高校生 ◎10.3% ▲52.9%
【算数/数学】
小学生 ◎6.4% ▲35.8%
中学生 ◎8.5% ▲46.0%
高校生 ◎9.8% ▲60.8%
【理 科】
小学生 ◎8.9% ▲30.7%
中学生 ◎11.0% ▲36.4%
高校生 ◎11.8% ▲52.5%
【社会/地理歴史・公民】
小学生 ◎15.8% ▲21.5%
中学生 ◎14.8% ▲34.7%
高校生 ◎12.6% ▲52.4%
【英 語】
小学生 ◎10.4% ▲40.1%
中学生 ◎14.8% ▲26.3%
高校生 ◎15.7% ▲37.6%
② ICT機器を使った子どもの活動
ICT利用調査では,どの学校段階においてもICT機器は探求的な学びで活用されているとようですが,「デジタル教科書を使う」という目的ではどれくらい活用されているのでしょうか。
参考までに,学校でICT機器を使った活動トップ5と比較してみましたが,まだ浸透していないのが現状のようです。
【小学生】
①学習内容について調べる 90.2%
②写真や動画を撮影する 72.3%
③自分の考えをまとめて発表する 71.9%
④グループで考えをまとめて発表する 68.3%
④考えたことや仕上げた課題を保存する 68.3%
デジタル教科書を使う 28.2%
【中学生】
①学習内容について調べる 87.8%
②グループで考えをまとめて発表する 69.9%
③自分の考えをまとめて発表する 67.3%
④考えたことや仕上げた課題を保存する 66.7%
⑤友だちと考えを共有する 65.7%
デジタル教科書を使う 34.7%
【高校生】
①学習内容について調べる 82.9%
②考えたことや仕上げた課題を保存する 67.6%
③先生に連絡する 61.9%
④グループで考えをまとめて発表する 60.1%
⑤自分の考えをまとめて発表する 59.2%
デジタル教科書を使う 26.4%
③ 学校の先生はICT機器を使ってどのようなことをしますか
では,子どもたちから見て,先生たちの活動はどのように捉えられているのか。
ここでは小中高生たちが,先生の活動について「よくする+ときどきする」と答えた%の高いものからトップ5を並べてみます。
デジタル教科書の未来① でお伝えした文部科学省のデジタル教科書の目指す未来,「デジタルの強みを活かして他の様々な教材やソフトウェアと効果的に組み合わせ,個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実を図る」という目的にどれほど近づいているのか。
現状では,協働的な学びの一体的な充実は実践されているようですが,個別最適な学びの方はまだ理想とはほど遠い状況と言えるかもしれません。
【小学生】
①ICT機器を使うルールやマナーを教えてくれる 77.2%
②情報の集め方・調べ方を教えてくれる 69.3%
③電子黒板で映像の資料を見せる 67.8%
④ICT機器の使い方を教えてくれる 63.8%
⑤電子黒板を使って説明する 55.3%
一人ひとりにあった課題を指示する 19.4%
【中学生】
①電子黒板で映像の資料を見せる 72.8%
②ICT機器を使うルールやマナーを教えてくれる 65.9%
③電子黒板を使って説明する 60.4%
④情報の集め方・調べ方を教えてくれる 66.7%
⑤生徒の回答を電子黒板に映して共有する 52.4%
一人ひとりにあった課題を指示する 18.5%
【高校生】
①電子黒板で映像の資料を見せる 73.5%
②生徒に連絡事項を伝える 71.8%
③電子黒板を使って説明する 64.6%
④ICT機器を使うルールやマナーを教えてくれる 51.2%
⑤情報の集め方・調べ方を教えてくれる 43.8%
⑤生徒の回答を電子黒板に映して共有する 43.8%
一人ひとりにあった課題を指示する 19.3%
今回は子ども目線のデジタル教科書の成果・評価について,東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所「子どものICT利用に関する調査2023」の調査結果を参考にしながら解説していきました。
デジタル教科書の目指す理想は理解しつつも,果たして本当に望むような効果が得られるのか,子どもたちにとって大切なことを見失っていないかなど,不安点がないと言えば嘘になるかもしれません。
当然ながら学校教育とともに,大学入試・高校入試も変貌を遂げていく訳ですから,後戻りができない義務教育期間に子どもたちに与える影響というのが懸念されるところです。